【縦走!】 西表島最高峰「古見岳」から「ユツンの滝」へ 2015年3月2日
みなさん、いきなりですが西表島で一番高い山をご存知ですか?
答えは島の東側に位置する古見岳(こみだけ) で標高は469.5メートルあります。
先月、この古見岳を登頂してからユツンの滝へ抜ける縦走ルートへ、風車の精鋭ガイド、沢田と羽生の二名が出かけてきました。二人ともこのルートを歩くのは初めてです。
今日はそんな二人の悪戦苦闘の様子を、先輩ガイドである沢田(写真右)にレポートしてもらいます。
◆いざ、出発!
風車のある船浦集落から大原港方面へ車で走ること約20分。左手に由布島を眺めながら走ると、ほどなくして登山口へ到着します。
身支度を整え、再度持ち物を点検したら車の轍(わだち)が残る道を歩きはじめます。ほどなくすると川に行き当たりました。
先へ進むにはこの川を渡らなければなりませんが、おそらく6時間はかかるであろう本日の山歩きを思うと足を濡らして川を渡る気にはなれません。
なぜなら日頃のガイド経験から、濡れたままの足で歩き続けると皮膚がふやけて足の皮がボロボロになってしまう事を知っているのです。
これから待ち受ける未知の体験を想像しながら、その後も何本もの川を同じように注意深く渡ります。
なるべく濡れないルートを探りながら歩くので方向感覚が鈍りそうですが、たびたび太陽の位置とコンパスを使ってルート確認してみると、ほとんど一直線に歩いている事が分かり安心します。
◆急登開始!
出発してから一時間、そろそろ一息つきたいな…と思っていると、いきなりの急な登りが始まってしまいました。
休憩のタイミングを逃したことを悟りつつ仕方なく急斜面を登って行くと、視界の開けた場所へ出て遠くに小浜島も望めます。一息つくにはこの上ないポイントへ出ました。
短い休憩を終え、再び歩き出すと道が左右に分かれているのが見えます。目的の古見岳へ行くのは左ですが、やはり右も気になります。
時間にも余裕があるので少し覗いてみたら、遠くにうっすら滝の姿が見えました。
初めて見る名も無き滝ですが、このような光景は西表島のジャングルにいくつも存在していることでしょう。
名瀑であるピナイサーラの滝を数えきれないほどガイドしてきた私でしたが、普段の生活では見る事のできない光景がとても新鮮に感じました。寄り道した甲斐がありましたね。
◆藪、藪、藪… ひたすら藪(やぶ)
この日は2月だというのに気温が24℃もありました。ひたすら続く登りがジャブのごとくジワジワ体を攻め続け、久しぶりに汗が噴き出ます。
あー、暑いっ!!
辛抱たまらなくなり、ついに長袖を脱いで半袖になりました。それが悪夢のはじまりだとは露ほども思わず…。
涼しくなった事で調子も上がって足取りも軽くなりました。
長身の私(身長188センチ)をも軽く超える高さの藪を、ひたすらかき分けかき分け歩き続けると…あれ?腕が痒いぞ!?
と思った時にはすでに遅く、おそらくハゼの木の類でしょうか、何らかのカブレる植物に触れていたようです。あれよあれよという間に右腕がドンドン赤くなっていくではありませんか!
渋々もう一度長袖に着替え、暑さ、痒さ、藪のひっかきのトリプル攻撃に耐えながら歩き続けました。今振り返るとこの時が一番つらい思いをしましたね。
◆古見岳山頂
出発から3時間。
そろそろ頂上かな…と思っていると、それまでツル植物に覆われていた周囲がいつの間にか竹藪に変わっていました。そして、さらに進むとどこかで見た記憶が…。
そうだ、トトロだ!
となりのトトロを彷彿とさせる緑のトンネルをくぐったり巨木に出会います。
あ・る・こ~♪ あ・る・こ~♪ わたしは~げんき~♪ なんて歌いたい気分です。
トンネルを抜けると、そこは山頂だった。となるのか!?
やや興奮気味に早足でトンネルを抜けると、あれ?ここ山頂??というくらい狭い場所に三角点とイリオモテヤマネコの像が鎮座しています。
イリオモテヤマネコの像にしばし目を奪われましたが、我に戻って視線をずらすと…。
この日は気温が高かったせいか霞(かす)みがかってはいたものの、疲れと痒みを吹き飛ばすには十分な絶景が広がっていました。
この景色をおかずにランチタイムといきたいところですが、風が強く落ち着いて食べれそうにないので早々に撤収し、次の目的地ユツンの滝へ再び出発です。
◆古見岳からユツンの滝へ
ここからユツンの滝を目指にはシダ植物が生い茂る沢沿いを下りて行きます。
途中、愛らしい白が特徴のナガバイナモリの群生地に出たりカギバアオシャクという蛾の一種に出くわしたりと、目にも楽しい光景に癒されます。
さらに下ると少しルートが分かりずらくなり緊張が走ります。原因は大きな倒木です。
長い年月を経てガジュマルに覆い尽くされた大木は何の木か判別するのが難しい状況でしたが、おそらく台風の影響か寿命によって倒れたのでしょう。
このように原始のままの姿を残すジャングルを歩いていると、登山というよりは冒険、探検という言葉の方が合っているなと強く感じます。
岩の上に目を向けるとイリオモテヤマネコの糞を発見しました。
ヤマネコの視線を意識しながら沢をジャバジャバ歩いて行くと、目の前に展望が開けてついにユツンの滝へ到着しました。
◆お待ちかねのランチタイム & 招かざる客
仕事やプライベートで幾度か来たことのあるユツンの滝ですが、滝上からの絶景とジャングルにそびえ立つ滝そのものの姿は何度見ても圧巻です。
が、しかし!お腹を空かせた男二人は景色よりお昼ごはんの方が重要な「花より団子」の心境。
メニューは単なるインスタントラーメンですが、家で一人さみしくすするラーメンとは比べようもない美味しさだったことは言うまでもないでしょう。
さて、お腹も落ち着いたし、ここは裸足にでもなって食後のコーヒーを楽しもう!と靴を脱いだら…。
ヤツがいました!
ひたすら足に食いついて離れないヒルがいました!
慣れてはいるつもりですが、見ていて気持ちの良いものではありません。ここは早急に退治します。
方法はいたって簡単。
ヒル目がけて消毒液をシュッとひと吹きすると、ポロッと落ちてお終いです。もしくは火を近づければいいのですが、その際は火傷に注意。
焦って手で払ったりすると口だけ残って後で炎症を起こす可能性があるので注意が必要です。
余談ですが、ヒルに噛まれると血がなかなか止まらなくなります。これはヒルの唾液に含まれているヒルジンという成分のせいだそうです。
このヒルジン、海外では医療にも活用されているそうですが、一体どんな治療に使われているのでしょうかね?
◆さて、そろそろ下山です
お腹を満たして美味しいコーヒーも頂いたことで再び力が湧いてきました。
絶景をバックに記念撮影をしてからユツンの滝に別れを告げ、そろそろ山を下りることにします。
ここからは慣れた道なので、いつものペースでゆっくり歩くとしましょう。
斜面を流れ落ちる水を横目にポットホールを避けながら数本の沢を渡ります。ジャングルの様子も徐々に低地特有の植生へと変化していき、アダンの木やモダマのツルがお目見えしてきました。
二人とも旅の終わりが近づいたことを感じてきたせいでしょうか、まだゴールしていないのに「次、どこに行く?」などど話しながら山を歩き続けます。
そして、無事に下山を果たした夜はいつもに増して美味しいお酒と会話で再び盛り上がりました。
以上でレポートは終了しますが、今回のトレッキングルートは一般的な観光ツアーで紹介されることはないと思います。
しかし、沖縄病を発症するほど西表島へ通い詰めた方にはぜひ体験してほしい縦走コースです。